194 本当にあった怖い名無し
大学卒業時、俺はお決まりの卒業旅行を考えていたのだが、もともと一人が好きなことと入学時や就職内定時に多大なお祝いをもらった叔父にお礼を兼ねて九州に一人で行くことにした。

九州の空港に降り立ち、約束どおり叔父の家に電話をしたところ急用があるのでお金を払うから、タクシーで来てくれといわれた。
俺は、地図と住所を持っていたため歩いていこうと考えた。それが間違いの第一歩だった。

その町を地図を見ながら歩き出して、俺は徐々に違和感を感じ始めていた。そう、電柱に番地がまったく書いていない!
そもそも町の名前を示すものさえないのだ。そして、どの家も表札がなく、たまにあっても住所が一切書いていない。
田舎特有の入り組んだ道、目印のない町、俺は道に迷ってしまった。



195 本当にあった怖い名無し
仕方ない、遠くから見て唯一目印になるもの~空港に俺は戻った。そして空港でタクシーを拾いなおした。
「フルマチ×丁目の○○さん(叔父の苗字)までお願いします。」

メモを見せながらお願いした。タクシーは出発する。だが、一時間近く走り回ったが目的地に着かない。おかしい。
地図を見直し、道が違うことを告げた。
「え?ニショマチの○○さんでしょ?」
「フルマチです!いったはずですし、メモも見せたはずです!」
運ちゃんは悪びれもせず、平然と道に止めると、「どうする?」と聞いてきた。
俺は頭に血が上り、精算することを選んだ。完全に嫌がらせだなと感じた。

見知らぬ町で、道端に置き去りにされ、俺は途方にくれていた。ここはどこなんだ?
俺は仕方なく、人がいそうなほうに歩き出した。するとそこに人がよさそうなおっちゃんが歩いていた。
「すいません、フルマチ×丁目の○○さんの場所を知りたいのですが・・・。」
俺は多分なきそうだったと思う。おっちゃんは暇だからとそこまで案内してやると快諾してくれた。
歩きながら、おっちゃんはいろいろな話をしてくれたが、話の内容はだんだんディープになっていく。
「あそこの家はねー、長男さんは隣の県で中堅企業に就職して役員になったんだってね。」
「三男さんは、市役所で土木課の部長さんでまあ、実質跡継ぎだよな。今もこの町に暮らしてるし。」
俺は唖然としていた。だってそれはすべて正しく、しかも身内の俺が知らない話をどんどん話していくのだ。
「詳しいですね。」
「まあ、この町は全体が家族みたいなものさ。ただねーあそこの家は次男坊だけがぐれて東京に出て行ったんだよね。」
「で、おたくさんは何者?」
「・・・・次男坊の息子です・・・。」
おっちゃんは急によそよそしくなると、俺のお礼の申し出も断り、逃げるように立ち去っていった。

その夜、叔父に一連の話をしたら「家からあまり出ないほうがよさそうだね。」と言った。
まるで、君はよそ者としてしか見られていないんだよ、といわれたような気がした。

俺は以来、父の故郷には行っていない。田舎に幻想もつのはやめよう、そうかたく心に誓ったのであった。