288 本当にあった怖い名無し
明治の初期、政府役人が人口などの調査のため山奥の村を回っていると、なぜか誰もいない村(といっても家が数件ある程度)があった。

廃村としてはまだ新しいので変だなと見回ると、裏の小川の土手が崩れて人骨がいっぱいその中から出ていて、役人たちが掘り出して調べたところ。
・遺骨は大人が10人分、子供8人分
・土砂崩れで埋まって死んだのではなく、土手に埋められていた骨が崩れたときに出てきた。
・全部死後刃物(ナタや斧といった刃物)で切った跡が何か所もある。

その後役人たちは骨をまとめて埋め戻すと、そこの隣村に宿をとった。
ついでに無人の村について聞くと、宿の主人は最初「知らない」といってたが、
遺骨の話を聞いて態度を変え「村長の爺さんから話を聞いてくれ」とおどおどと言い出した。
村長の爺さんを問い詰めると「あんな恐ろしいことは話したくないが、お役人様なら仕方ない」と、
2年前の夜起きたという恐ろしい事件について話してくれた。

そのころこの辺はひどい飢饉で、隣村との交流はほとんどなかったのだが、ある夜そちら側から牛の仮面をつけた男が逃亡してきた。
舌を抜かれてしゃべれないその男は何かに怯えた様子だったが、すぐに鬼のような形相をした隣村の人が鎌や斧を持ってきて
「ワシらの牛を返してくれ」とヤバい表情でいうので、こっちの村の人は係り合いになりたくなかったから牛男を引き渡したそうな・・・

「後で考えると、食うものが無いせいで人を牛と称して殺して食ってたんじゃろう…それからというもの恐ろしくてこの村の者は誰も向こうに行きません。」
「…だから道があれほどまで荒れ果てていたのか。」
「…お役人様、当事者は皆死んでしまいましたし、このようなむごいことはどうか公には…」
「分かった、2年前の飢饉で全滅したと帳簿に書いておこう…で、そうなる直前にはあの村の人間は何人いたのか分かるか?」
「…18人ですじゃ。8人家族で子供が4人いたところが1組と、4人家族で子供が2人いたところが2組、子供のいない夫婦が1組…」