213 聞いた話 ◆UeDAeOEQ0o

数年前の夜中、昼間に火入れをした炭窯の様子を見に山へ入った。

煙の温度を測り、木酢液を入れる容器を交換してると
少し離れたところを通っている林道を登ってくる車が見えた。
暗い夜道をヘッドライトも点けずに静々と走っている。
やがて、車は炭窯のある空き地の入り口まで来るとゆっくりと停まった。

さては不要になった車を捨てに来たのか?
そう思って近づいてみると、やはりボディーはボロボロで薄汚れている。
注意してやろうと思い、運転席めがけて懐中電灯の光を浴びせた。

明かりに照らされた車内には、縺れた有刺鉄線がぎっしり詰まっていた。
人が入れる隙間などどこにもない。
見た途端に背筋が寒くなり、慌てて人里へ逃げ帰った。

今もその車は空き地の入り口に放置されているそうだ。