221 川の畔・その1
ある山の麓の話。

村の側を流れる川の畔に、人間の生肝が大好きな妖怪が住んでいたという。
その妖怪は通り掛かる人間を誑かしては死体を食いあさっていた。
しかし、最後は村から追い出されて、どこかに去っていった。

3年ほど前、伯母がその川の畔の道で事故に遭った。
いつものように車を運転していた所、急に意識を失って、気がついたら病院のベッドの上だった。
緩やかなカーブが時折あるだけのほぼ直線の道で、どうしてハンドルを切り損なって
しまったのだろうと、親戚も伯母自身も不思議がっていた。
幸い命は取り留めたものの、脳に損傷を受けたのか、伯母は言葉が上手く出なくなってしまっていた。


222 川の畔・その2
またある時。近くのお年寄りが、やはり川の畔で事故を起こした。
伯母と同じように運転中に意識を失い、車ごと川に突っ込んで眠るように亡くなっていたという。
道路には頑丈なガードレールが取り付けられた。

そして、今年の話。
今度は同じ場所でバイクの若者が事故を起こした。対向車はいなかった。
現場を目撃した人の話によると、若者の遺体は首が切断され、内臓がぐちゃぐちゃの状態だったそうだ。
頑丈なガードレールがかえって仇となったのだろうか。

事故のニュースを聞いた時、地名を見て何か嫌な予感がしたのを覚えている。
…あれ、△△って叔母ちゃんが事故ったトコじゃなかったっけ。
単に事故の起こりやすいポイントだと言われればそうなんだろうけど、ね。
亡くなった人にはもう聞けないけど、その場所で事故に遭った人達が、
ひょっとしたら全員、『急に意識を失って』いたのだとしたら…?

その地域の昔話では妖怪は退治されていなくて『どこかに行った』だけなんだよね。
妖怪はまだその川にいるのか、それともいないのか、
祀りや供養は行われているのか、それとも単にその場所が忌み地だったのか。
小説や漫画のようなはっきりした起承転結が無いだけに、得体の知れない薄気味悪さがずっと続くような。