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高級チョコレートで有名なゴディバ。
そのロゴマークには、裸体で馬にまたがった女性が描かれている。

彼女こそが、領主の妻であったゴダイヴァ夫人である。
彼女の夫は、領民への理不尽な圧政を行っており、人ばかりか馬にまで税金を課していたという。
夫の悪政に苦しむ領民を知った夫人は、夫に馬税を撤廃するように迫った。
領主である夫は、夫人に対して「そなたが次の日曜日、全裸で馬にまたがり町を一回りすることができれば考え直そう」と提案した。
慎み深い夫人がそのような辱めに耐えうることができないと思っての提案だった。
しかし夫人の決意は固く、それを知った役人たちは領主に知られぬように、
町中にその日は固く戸締りをするようにとの御触れをだした。そして当日、全裸になった夫人は馬にまたがり、二人の騎士役の侍女を連れて町中を巡った。
町人たちは夫人の意思に感服し、皆固く戸を閉ざしだれも覗き見るものはいなかった。

ただ一人、仕立て屋のトムを覗いては。

密かに夫人を覗き見ていたトムの結末は哀れだ。夫人を一目見た瞬間、たちまちのうちに天罰が下り失明してしまったという。
また別の話では、うっかりとそのことを他人にしゃっべってしまい、町中の住人によってたかって目を潰されてしまったという。
さて、この覗き屋トムについて、別の話が有る。男はもともと盲目であったというのだ。
盲目がゆえに、覗き見ることなど思いもつかず、うっかりと戸を閉め忘れたという。それを騎士が見とがめただけだという話だが、後年、若者に道徳を教えるために、このかわいそうな盲人は、トムと言う名前を付けられて、のぞき見の天罰を受け盲目になったことにされてしまい、一つの寓話が作られたという。
それが証拠にトムという名前は、アングロサクソンには無い名前で、ゴディバ夫人の時代には存在しないものであるという。

なお現在でも、欧州では増税反対のデモに際しては、ゴディバ夫人をならい肌色の服をまとった女性が
馬にまたがり抗議をすることがしばしば見受けられるという。
また、かの地では1678年からゴディバ夫人の行進の行事が行われており、
当初は、男の娘が肌をあらわにしてゴディバ夫人役を務めていたという。